2020年(立教183年)3月月次祭神殿講話 ~誠の心~

 ただいまは、3月の月次祭をにぎやかにお勤めいただきまして、誠にありがとうございました。
 人数は少なかったですが、鳴り物もしっかりやっていただいて、最後はすりがねも入っていただき、本当に陽気におつとめさせていただきました。本当にありがとうございました。

 皆様ご承知のとおり、新型コロナウイルスが世界中に蔓延してしまいまして、人混みに出ないとか、手を洗うとか、そういうことでなんとかを防ごうとしています。ということで、今月の月次祭は、ご高齢の方、または公共交通機関を使われる方については、ご自宅で遥拝をしてくださいというようにお願いをいたしました。

1.おふでさき
 実は、ウイルスに関してはおふでさきがあります。昔、明治時代にコレラが大流行した時、何十万人と亡くなった時のおふでさきです。

にち/\に神の心のせきこみハ
とふぢんころりこれをまつなり(4-17)

 これは、「コレラ」と「ころり」をかけたおふでさきなのですが、「とふぢん」とは「唐人」のことで、これは中国人を指しているのではなく、親神様の教えを知らない人、という意味です。おふでさきでは、当時の人たちが分かりやすいように、親神様の教えを知っている人を「やまと」つまり日本人、そうでない人を「から」つまり中国人に喩えています。比喩としてはなんでもよかったと思いますが、当時の人々にとって、一番わかりやすい外国人の喩えが中国人、とふぢんであったということだと思います。
 日々神様が急いでいることは、この道を知らない人々がコロリと心を入れ替えることである。
 つまり、神の心を理解できない人が、ころっと心を入れ替えて、神の話を理解してもらいたいと、そういうおふでさきです。
 このおふでさきには二つの意味があります。
 一つ目は、このお道を聞いた人が心を入れ替え、みんなのために働くようになってもらいたいということ。二つ目は、お道のことを知らない人に、早くこの道を伝えなさいと、そういう意味もあるのです。
 つまり、お道を知っている我々が、お道を知らない人々にきちんと伝えなきゃいけない。神様は、そういうことを急いでおられるということになるわけです。
 神様の心がなかなか人々に拡がっていかない、伝わっていかない、こういうもどかしさを、今、神様はお示しくださっているのではないかと、そのように思います。
 今こそ、おたすけをする、にをいがけをするということを、神様が望んでおられる旬なのだということを、改めて我々この機会に考えてみなければいけないと思います。
 昔ですと、新型コロナウイルスのようなものが世界中に蔓延しますと、宗教によっては、これを悪魔の仕業だと捉えることもありました。そうではなく、先ほどのおふでさきをふまえますと、今の状況は、神が残念がって、もっとみんなに心を入れ替えてほしい、人をたすける心になってほしい、ということを我々人間に頼んでいるんだ、そのように捉えていただきたい。

2.誠の教え
 話は変わりますが、私が学生の頃、東京教区学生会という、天理教の学生の集まりがありました。そこへ、突然キリスト教の若い人たちが議論を挑んできたことがあります。彼らは、キリスト教は愛だ愛だということをしきりに言うんですね。それに引き換え、天理教には愛がないじゃないか、ということを言って帰ろうとしたので、当時私は一番下級生だったのですが、ちょっと待ってくれと言い、「キリスト教が愛の教えなら、天理教は『誠』の教えである」と話したことがあります。
 みなさん、ここに額がかかっていますよね。これは、二代真柱直筆の額なのですが、「誠」という漢字が書いてあります。「誠」の草書体がこの額なのです。「誠」の字を分解しますと、「言ったことが成る」となります。 天理教が誠の教えだということは、おかきさげの中にその理由を見つけることができます。

誠の心と言えば、一寸には弱いように皆思うなれど、誠より堅き長きものは無い。誠一つが天の理。

 「誠の心」というのは、簡単に言いますと、人をたすける心なのです。でも、人をたすける心があっても、それを「誠の心」とはいうけれども、「誠」そのものではありません。では、「誠」とはどういうことか。私は、三つの条件が揃わないと「誠」にならないと思っています。
 繰り返しになりますが、漢字の「誠」は、「言葉が成る」、言ったとおりになってくるということ。そうであれば、まず、
1.言葉で人様を喜ばせ
2.人がたすかるような行いをする。
3.1と2は、何よりも人をたすけたい、たすかってもらいたいという真実の心から出るも  のであること
 つまり、口と手と心、この三つが揃って初めて「誠」というのであろう思います。
 言葉だけだと、あの人は口先だけだと言われる。だったら、むしろ言葉はなく陰で行動してる人の方が、あの人は「誠」の人だなというふうに言われるかもしれない。でも、そこに真実の心がないと、結局下心からか、と見られてしまう。このように、「誠」を持ってとおるということは、非常に難しいものです。

3.日帝の二代会長夫妻
 東本大教会の二代会長に、中川庫吉(くらきち)先生という方がいらっしゃいます。東京教区の教区長をされていたので、その昔、この日帝分教会に巡教に来られたことがあります。昔、日帝分教会は、江東区古石場という所にありました。戦後だったので、非常に粗末な造りの教会でしたが、その教会に中川庫吉先生がお出でになったわけです。中川庫吉先生は、伝説的布教師でもある東本大教会初代会長の中川よし先生に厳しく仕込まれ、先のことが見えるといわれた立派な先生ですが、人の顔を見ただけで、その人がどういう人か分かるというんですね。
 実は、私も弁護士を40数年やっていますが、弁護士のところには、それはもういろんな人が来ます。一流企業の社長もいれば、人を傷つけたり、人を騙してお金を儲けたりする犯罪者、逆に騙されたりして泣きついてくる被害者、もういろんなタイプの人間をよく見ておりますから、人の顔を見ると大体分かるようになりました。しかし、中川庫吉先生というのは、教内でも指折りの大教会長としていろんな人間を見てきただけでなく、確固たる信仰がきちっと入っているわけなので、どんな人かは言うに及ばず、その人の運命までも分かると言われておりました。
 そんな先生に、日帝分教会の何人かの方が顔を見てもらって、色々と言葉をいただいたそうです。そんな中で、ここに写真がありますが、私の祖父である二代会長の亀田儀八さんのことを見て、「あんたは損な性分やなあ。その口の強いのさえなければ誠の人なのになあ」と言われたそうです。先ほどの話からしますと、心も行動もあるのに、残念ながら言葉が強かった。人を喜ばせる言葉を使っていなかった、ということで「損な性分やなあ」と言われたそうです。
 そして、二代会長の妻、私の祖母である亀田八重さんの顔を見てしみじみと一言、「あんたは誠の人やなあ」とおっしゃったと言うんです。私、このことは、何人かの信者さんからも直接お聞きしましたし、前会長からも聞きました。その時中川庫吉先生に付いてらっしゃった東本の方がおっしゃるには、あの中川庫吉先生がそのようにおっしゃった方は他にはおりません、ということでした。
 私もそばで祖母のことを見ておりましたが、本当に目立つことはせず、家では全ての事をやって、信者さんのことを喜ばせて帰していく。そんな祖母を子供ながらに素敵なおばあちゃんだなぁと思っておりましたが、中川庫吉先生のような立派な人から見ても「誠の人やなあ」と思えた。それに比べて、祖父は「損な人やなあ。口さえなおせば誠の人なのに」と言われたそうです。それぐらい、誠とは難しいものなのです。私も言葉が強いので、おそらく中川庫吉先生に見てもらったら、二代会長と同じようなことを言われたんだと思います。

誠一つが天の理。天の理なれば、直ぐと受け取る直ぐと返すが一つの理。

 人のためになにかしたからといって、人からお礼を言われようとは決して考えない。神様が見ているのだから。人様が助かってもらえるように一生懸命にやる。それを陰で、人の見えないところで行っても、必ず神様は見ていてご褒美をくださる。そういうことが天理教を信仰するということだろうと思います。

4.3月12日のこと
 ところでみなさん、9年前の今日、覚えてますか?
 実は、東日本大震災の翌日でした。私も震災当日は仕事場から帰れず、12日の朝ようやく教会に戻ってきたぐらいでした。電車は震災直後から全て止まっていて、翌日もなかなか動かない。そんな大地震があった日の9年前の今日も、やはりこのように少ない人数でした。
 こういうこと一つとって考えてみても、今日は地震もなく、電車もちゃんと動いている。取り立てて物の不足もない。ウイルスのことが気になるといっても、基本的に不自由なく生活ができている。一方で、まだあの9年前の大地震の影響から脱し切れず、今も苦しんでいる人たちが4万人もいるそうです。私たちができることはまだまだあります。直接に被災地に行って行動することができないのであれば、朝晩そういう苦しんでいる人たちのために、どうか早くそういう人たちが元の生活に戻れますようにと祈る。これも「誠の心」かと思います。
 この3月12日というタイミングは、神様が、日常当たり前だと思っていることを改めて思い出させてくれる日。なんでもないということが、どれだけ幸せなのかということを改めて考えるようにと教えてくださっている日だというように思います。
 日常のなんでもない日を喜ぶ心を作る、ということを、この3月12日の月次祭に念じて、改めてこの一か月、お過ごしいただきたいと思います。
 本日は誠にありがとうございました。

2020年03月18日